業務に関連した財産犯
目次
業務に関連する財産犯の基礎知識
横領罪
仕事に関連して行われる財産犯として、「横領」という罪名が挙げられることは多いものと思われます。
横領罪は、自己の占有する他人の物に対する領得行為を規制する犯罪です。通常の横領罪の法定刑は5年以下の懲役とされ、窃盗や詐欺よりも軽く定められています。これは、窃盗や詐欺と異なり、被害品である他人の物を占有しているという状況が誘惑的であること、他人が物を利用するのを妨害するという性質が少ないことが根拠であるとされています。
もっとも、横領行為は、他人の物の占有が業務上のものである場合、業務上横領罪として処罰され、法定刑は10年以下の懲役まで引き上げられています。(この業務上横領と区別するため、通常の横領罪は単純横領罪と呼称されることがあります。)業務上という言葉の響きからは仕事で占有をしている物にのみ成立するようにも聞こえますが、仕事であることは必須なものではありませんので、ご注意ください。
窃盗罪
仕事に関連して行われる犯罪としては窃盗罪もしばしば挙げられます。窃盗罪は、窃取という方法で他人の財物を領得する行為を処罰する犯罪です。刑法235条は、窃盗罪について10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するものと定めています。
窃盗罪の典型例としては、万引きや空き巣などの行為が挙げられます。もっとも、窃盗罪で処罰される行為の中には、他の犯罪と混同しやすいものもあります。例えば、勤務先のレジのお金をレジ係の店員が無断で領得する行為は、横領と捉える人もいますが、窃盗罪として処罰される可能性が高い行為です。また、他人のキャッシュカードを無断で使ってATMから引き出す行為も、窃盗罪として処罰をされることが多々あります。さらに、誰かが放置している物を取る行為は、より軽い遺失物横領罪、占有離脱物横領罪として処罰されるケースもあれば、放置状況次第では、窃盗罪で処罰されるケースもあります。どのような犯罪に該当するかは処罰の見通しを大きく左右するものですが、このように些細な事情の違いで窃盗罪よりも軽い罪が成立したり、重い罪が成立する可能性もあるのです。
詐欺罪
詐欺罪とは、人を欺いて錯誤させ、これによって財物や財産上の利益を交付させる行為を処罰する犯罪です(刑法246条)。仕事との関連では、資力や用途をごまかして出資をさせたり、商品を用意できる見込みがないのに嘘をついて代金等を支払わせる行為には詐欺が成立する可能性があります。
詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役に処するとのみ定めており、窃盗罪で認められている罰金刑を設けられていません。したがって、詐欺罪は、基本的に窃盗罪よりも重い罪であるということができます。
上記のとおり、詐欺罪は物を交付させる行為にのみ成立するわけではなく、詐欺行為によって労務・サービスの提供や債務の免除を実現した場合にも、詐欺罪として処罰がされえます。(後者のわかりやすい例としては、タクシーの無賃乗車が挙げられます。)
背任罪
仕事に関連する犯罪としては背任罪も挙げられます。
背任罪とは、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背き、本人に財産上の損害を加え」る行為を処罰する犯罪です(刑法247条)。一般的な例でいえば、取引の決裁権限を持つ会社従業員や役員が、親族・知人に便宜を図って、会社にとって損しか生じないような回収不可能な貸付けや不相当な代金での売買を行い、会社に損害を与えた場合に成立する可能性があります。
背任罪の法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金とされ、単純横領罪と異なり罰金による処罰が規定されています。そして、単純横領罪と業務上横領罪のように、背任についても、一定の地位にある者(例えば、株式会社の取締役等)が背任に及んだ場合、特別背任罪として処罰され、法定刑も引き上げられています(会社法960条以下)。
よくあるご質問
Q:財産犯は全額弁償すれば、実刑になることはないのでしょうか
財産犯は被害額が多額である場合、初犯でも実刑になることがある一方、全額弁償すれば実刑を回避できることもあります。これは、全額の弁償により被害のほとんどが回復されているという考えによるものとも見受けられます。
もっとも、強盗罪や恐喝罪のような他人に危害を加えて財物を領得する財産犯については、全額の弁償をしても、身体的な被害が回復したとはいえず、その他の犯罪よりは実刑の可能性があるものとみられます。また、詐欺罪等の身体に危害を加えない財産犯でも、例えば公金詐欺のような事案では、方法の悪質さや犯罪の回数によっては、全額の賠償がされても実刑判決を下した事例も散見されます。
結論としてはケースバイケースとしか言えないところではありますが、少なくとも財産犯だからと言って全額賠償すれば実刑を回避できるという考えはしない方がよいものと考えられます。
Q:会社のお金を不正に利用していました。この場合、懲戒解雇や退職金の不支給はありうるのでしょうか
社員が犯罪行為に及んだ場合であっても必ずしも懲戒解雇が有効とされるわけではなく、被害額、弁償の有無、手段の悪質さ等によりケースバイケースではありますが、会社の財産についての横領、背任等について、裁判例は厳しい評価を下す傾向にあります。
もっとも、懲戒解雇が有効とされるケースでも、必ずしも退職金の不支給が認められるわけではありません。この場面でも、被害額や弁償の有無、手段の悪質さ、退職金の性質等が考慮され、労働者のそれまでの勤続の功を抹消したり、減殺するほどに著しく信義に反する行為があった場合に限られるとの限定を設ける裁判例が多々あります。
いずれにしても、考慮されている事情は刑事事件で刑を軽くする事情と重なっているものでもあるため、刑事事件で適切な弁護を受けて、刑事事件について有利な証拠を収集することは、雇用関係での不利益を回避する点でもメリットになりうるものとも言えます。
弁護活動のイメージ例
1.罪を認めている場合
基本的には、事件の経緯・経過や前科の有無等の事情を聞き取り、見通し(処罰の内容や示談が処分・処罰に与える影響等)についてお伝えをいたします。そのうえで、ご希望に応じて被害弁償金の調達手段や調達可能性について打ち合わせをさせていただき、適宜、被害者の方への弁償や示談ができるよう活動をいたします。
2.否認をしている場合
基本的には、事件の経緯・経過や前科の有無等の事情を聞き取り、見通しをお伝えする点は、認めている場合と大きく異なりません。
起訴前では、取調べへの対応方針(黙秘をすべきか否か、どのような書面への署名を拒絶すべきか否か)について打ち合わせを行い、ご助言をいたします。もっとも新たな展開により方針を変更する必要があることはあり得ます。特に逮捕事案の場合、取調時の捜査官の態度・言動等から、一度選択した方針をとり続けることに不安を覚える方も多くいらっしゃいます。そのため、こまめに接見を重ねて、適宜、被疑者の方の不安をケアし、方針継続の意思を確認したり、方針内容を調整いたします。また、先だって保全・確保すべき証拠がある場合には、その保全、収集活動を行います。
起訴された場合には、検察官が開示した証拠、請求を予定する証拠に応じて、裁判の準備を進めます。
ご料金
被疑者の認否等により、弁護士費用が異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
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