交通事故
目次
交通犯罪の基礎知識
自動車、バイク、自転車といった交通車両は、現代の日常生活に欠かせないものとして多くの方が運転をされています。もっとも、一歩間違えれば重大な事故を招いてしまうものであり、自動車運転過失致死傷、業務上過失致死傷罪は、多くの人が加害者になる可能性のある犯罪であるといえます。このページでは、このような人身事故に関する犯罪を中心に、交通犯罪についての基礎知識をご説明いたします。
人身事故の種類
過失により人を死傷させるというのが人身事故ですが、この人身事故一つをとっても、成立する犯罪や罪の重さは多岐にわたります。
現行法では、自動車、原動機付自転車(対象はどちらも道路交通法2条の定めと同じです)の運転による人身事故については、自動車運転死傷処罰法により、自転車等のそれ以外の車両については刑法211条の業務上過失地致傷罪により処罰するものと定められています。その結果、自動車、原動機付自転車の運転について、必要な注意を怠り(過失)、人を死傷させた場合は、7年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金に、自転車等のそれ以外の車両の運転について、必要な注意を怠り、人を死傷させた場合は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるといったように、処罰の根拠・内容が分けられています。
危険運転致死傷罪とは
もっとも、自動車・原動機付自転車の運転については、人(被害者)の死傷の原因が自動車運転死傷処罰法の定める危険運転行為である場合、過失致死傷罪とは別の罪である危険運転致傷罪が成立します。
危険運転行為とは、①アルコール・薬物の影響により正常な運転が困難な状態(酩酊運転)、②進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為(制御困難運転)、③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(未熟運転)、④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険性を生じさせる速度で自動車を運転する行為(妨害運転)、⑤赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(信号無視運転)、⑥通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為を指すものと定められています。
危険運転地致傷罪は、危険運転行為という故意行為により人を死傷させたという点で、過失よりも重く処罰されるべきものと位置付けられており、人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処するものと定められています。
アルコール・薬物・病気の影響による事故
危険運転致死傷罪は、アルコール又は薬物の影響により「正常な運転が困難」な状態に達した場合に成立しうる犯罪です。これは、裏を返せば、その影響が「正常な運転が困難な状態」に達するものでなければ、危険運転致死傷罪は成立しないことになります。
もっとも、自動車運転死傷処罰法は、アルコール、薬物については、この状態に達しない程度の影響であっても、走行中に正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転し、よって、そのアルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥って、人を負傷させたときは12年以下の懲役、人を死亡させたときは15年以下の懲役に処するものと定め、通常の自動車運転地致傷罪よりも重く処罰することを定めています。
病気の影響による事故
危険運転行為には病気を明記した形の類型はありませんが、政令で定められている特定の病気の影響の場合も、走行中に正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させたときには、アルコール・薬物の影響と同様の処罰がされるものと定められています。
無免許運転による加重
危険運転行為の類型である未熟運転は、無免許であることのみから認定されるものではありません。しかしながら、危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪の原因となる運転が無免許運転である場合には、そうでない場合よりも処罰を加重するものと定められています。
よくあるご質問
Q:人身事故を起こした場合、逮捕されることはありうるのでしょうか
逮捕はされる可能性はありますが、事故の内容や事故後の行動、状況等によっては逮捕がされないことも十分にありえます。逮捕は、被疑者の逃亡、証拠隠滅、関係者への口裏合わせを含む働きかけ等を防止するために執行されるものとされています。そして、人身事故の場合、重罰の可能性が低く逃亡の実益が小さいケースが多く、事故車両が警察に確保されている、目撃者・被害者の氏名・所在・連絡先(場合によっては容貌も)を被疑者が知らないなどの理由から、関係者への働きかけや証拠隠滅が困難とされるケースも多いため、逮捕の必要性は小さくなるものと考えられます。もっとも、ひき逃げなどの事故後に逃亡を図った事案や、危険運転行為や飲酒等のより重い罪として処罰すべき事情の存在が疑われるケースでは、証拠隠滅や逃亡を図る危険が高まっているため、逮捕の可能性も高まるものと考えられます。
Q:任意保険に加入していないのですが、このような事情は不利になるのでしょうか
裁判例の中には、任意保険に加入していないために被害者に対して十分な賠償を行えなかった場合、その事情を不利なものとして扱っているものが認められます。自動車事故による障害は重篤なものとなることが多々あり、損害額(賠償すべき額)も大きなものとなりうるため、任意保険未加入の場合には十分な賠償を行うことは極めて難しいものと考えられます。そのため、任意保険未加入の事案では、結果的に賠償が行えず、重く処罰されることが多いものと考えられます。
なお、自賠責保険に加入していなかった場合については、法令上の義務に違反していることにもなるため、仮に全額の賠償をしていたとしても不利な情状として扱われる可能性があります。
弁護活動のイメージ例
1 罪を認めている場合(人身事故事例)
事故の経緯・原因に応じて、今後の事故防止策(例えば、高齢による体力の低下が事故原因にある場合には、免許の返納等)を提案し、裁判に間に合わせる形で有利な事情ができるように進めてまいります。また、任意保険会社に示談代行を任せている場合、担当者の態度等などから交渉が行き詰まり、被害者の方の処罰感情が高まっていることもあるため、適宜、保険会社に示談の進捗を確認し、希望を伝えつつ、見舞金等の形で保険会社とは別に賠償することについて検討をいたします。
なお、罪を認め、犯罪の成立がやむを得ない場合であっても、事故状況によっては、事故を回避できなかったことについて酌量の余地があるとされるケースも考えられるため、そのような事故状況がないかも確認し、そのような状況が認められる場合には裏付け証拠の収集を進めます。
2 否認をしている場合(人身事故事例)
ご本人から事実関係、取調べ状況等を聞き取ったうえで、争っている事実関係が処分・処罰との関係にどのような影響を与えうるか(犯罪成立を妨げる事情となるか、犯罪の成立は妨げないが処罰を軽くする事情となるか)等の見通しをご説明し、その認識する事実関係に基づいた方針のすり合わせをさせていただきます。そのうえで、主張を裏付ける証拠(例えば、目撃者や防犯カメラの有無の確認、信号の表示が関連ある場合は表示パターンの調査等)の収集・保全活動を進めていまいります。
なお、犯罪が成立しない場合であっても、民事上の損害賠償責任が肯定されることはありうるため、犯罪の成否を争うこととの関係で支障がなければ、被害者への謝罪・賠償(保険会社に代行をさせている場合、その進捗の確認や別途活動をすべき場合はその活動)も並行して進めます。
ご料金
被疑者の認否等により、弁護士費用が異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
捕まった方の認否や希望がわからない、とりあえずアドバイスだけでもしてほしいという場合には、3万3000円(実費別)で初回接見(弁護士による面会)への出動もお引き受けしております。