残業時間の証拠がない?どのようなものが証拠として利用できるかを解説
タイムカードもない、労働時間の管理アプリも導入されていない、日報・日誌の類も作成されてないなど、会社が労働者の労働時間や労働内容を全く記録していない職場があります。
このような職場にお勤めの方の中には、証拠がないから残業をしても残業代は請求できないとお悩みになっている方もいらっしゃるでしょう。
本コラムでは、そのような職場で残業時間を証明するには、どのような方法(証拠)が考えられるかを解説いたします。
目次
1 働いていたことの痕跡を証明する
まず、働いていたことの痕跡、すなわち「少なくともこれくらいの時間には(これくらいの時間までは)働いていた」と言える証拠がないかを探してみましょう。
例えば、職場から自分用のパソコンを支給されている方の場合、パソコンの起動時刻、シャットダウン時刻のログデータを利用することが考えられます。
自分用のパソコンが支給されているのであれば、基本的には自分以外がパソコンを起動・使用することはないため、起動時刻までには少なくとも出勤していた、シャットダウンの時刻までは少なくとも退勤していなかったといえ、最低限の労働時間を証明できる可能性があります。
また、オフィス内に入るためにセキュリティカードが導入されているような場合、セキュリティカードの使用時刻のデータが警備会社に残されていることがありえ、これを活用することも考えられます。
そのほか、会社内でしか使用できないアカウントから送られていたり、会社内にいることを前提とした内容をもつ仕事関係のメールやアプリのメッセージがある場合、その時間は最低限働いていたといえるため、労働時間を推測させる証拠として利用できる可能性があります。
2 働き始める直前・働き終わった直後であることを証明する
さらに、働いていた証拠ではなく、働き始める(出勤)直前・働き終わった(退勤)直後であったことを示す証拠を活用することも考えられます。
例えば、退勤時にご家族へのLINE等で「今から帰る」というメッセージを送る習慣のある方もいらっしゃいますが、このようなメッセージは、退勤時刻を推測させる証拠になると考えられます。
これ以外にも、IC乗車券の履歴を使用して通勤している場合には、その履歴を出勤・退勤時刻を推測させる証拠として活用できる可能性があります。(ただし、遡れる履歴の件数・期間に上限があるため、こまめに保全しておく必要がありますので、ご注意ください。)
3 自分で証拠を作っておく
それでは、このような証拠が全くない場合では、残業代を証明する手段はないのでしょうか。
この場合、自分で作成したメモ・記録を証拠として利用することが考えられます。
もちろん、これらの証拠は労働者側が自由に作成できるため、これまで上げたような労働者以外が作成した証拠、残業代請求と無関係に作成された証拠よりは、証拠としての力が弱いと判断される傾向にあります。
もっとも、日誌のように、労働時間と共に、業務の内容やその日の出来事を具体的に書いておくことにより、事故的に作成することは困難であるとして、その内容が信用されやすくなります。
また、前にご紹介したようなIC乗車券の記録、メールやLINE等が、断片的で労働時間を証明するのに不十分・不足する場合であっても、自身が作成したメモ・記録と一致し、その内容を裏付けることができるようなものである場合、メモの内容を信用させる手助けになると考えられます。
4 証拠を収集する方法
これまでご紹介した証拠の中には、いざ残業代を請求しようという気持ちになっても、収集が困難・不可能になっていることがあり得ます。
例えば、パソコンの起動に関するログ等のデータは、退職後に消去されてしまって収集が困難になることが考えられます。
そのため、在職中に自身で収集して保全を行ったり、退職直前に残業代の請求をすることを告知して使用者がデータを消去しないよう働きかける(あるいはその両方)といった手段を取ることが考えられます。
また、使用者が残業時間の証明を妨害するためにデータを破棄をする可能性が高い場合、裁判所の証拠保全を申立て、裁判所が命令を出すことにより、証拠を収集することができます。
他方、警備会社のセキュリティ記録のように第三者が保存しているデータの場合、残業代請求妨害のために破棄される危険はないものの、労働者の方が使用者の同意なく収集することは困難であると考えられます。
このような証拠については、残業代を依頼した弁護士による照会(弁護士会照会)や裁判提起後の裁判所による照会(調査嘱託)等によって、収集を実現できる可能性があります。
5 弁護士に相談することのメリット
ご紹介したように残業時間の証明に活用できる証拠は、職場によって変わり、いろいろなものが考えられます。
労働事件を取り扱う弁護士に相談することは、その職場においてどのような証拠が収集できそうかということを見つけ出す近道になると考えられます。
また、自身でメモを作っておく場合でも、それが裁判所に信用されるような内容にするためには、裁判の経験がある弁護士の助言を得ることが効果的です。
さらに、証拠の中には、証拠保全や弁護士会照会、調査嘱託など弁護士に依頼しなければ、選択することが困難・不可能な手段でしか収集できないものがあることも考えられます。
残業時間の証拠が見つからない・集められないことでお悩みの方は、弁護士に相談することをお勧めいたします。
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