雇止めをされてしまった…更新がゼロ/1回では、雇止めは争えないのか?
近頃は雇用にも色々な形が増え、非正規、有期雇用の労働者の方も年々増えています。そのような有期雇用労働者の中には更新を1回しか受けられなかったり、更新が1回もされないまま契約を切られて(雇止めを受けて)しまう方がいらっしゃいます。
このような場合、雇止めが無効であると争うことはできないのでしょうか。
今回のコラムでは、労働者の立場にたって、更新がされたことがない又は更新が数回程度しかない有期雇用労働者の雇止めについて、どのような場合に争うことができるのかを雇止め規制の仕組みとともに解説します。
目次
4.雇止めの目的が専ら法律上許されないものである場合、労働者は争える余地がある
1.労働契約法19条による規制
この法律は、次の2つのいずれかに該当する有期雇用について、客観的に合理的な理由がない限り、使用者が雇止めすることを禁じています。
(1)過去に反復して更新されたことがあり、雇止めが無期雇用の解雇と社会通念上同視できる場合(19条1号)
(2)契約期間満了時に更新がされるものと期待することについて合理的な理由がある場合(19条2号)
更新が1回以下の雇用では、(1)場合における「反復して更新された」という要件を満たすことは基本的にありません。
そのため、(2)の場合、すなわち、更新がされるものと期待することへの合理的理由が認められるかが、雇止めを争えるかの鍵となります。
2.更新の期待への合理的理由の判断材料
更新を期待する合理的理由の有無は、最高裁平成3年6月18日第三小法廷判決(進学ゼミナール予備校事件、労判590号6頁掲載)を始めとした過去の裁判例に照らすと、以下に述べるような事情から判断される傾向にあります。
・雇用の臨時性・常用性
・更新の回数
・雇用の通算期間、
・契約期間の管理状況
・雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無
など
このような傾向を見ると、過去更新されたことがあるかは期待の有無を判断する上で重要な事情であることは間違いなく、特に更新がされていないケースの場合は労働者が雇止めを争うことは基本的に難しいものであると言えます。
3.更新ゼロ・1回でも期待に合理的理由があるとされたケース
しかし、労働者にとって争うのが難しいと言っても、以下に紹介するような、更新が1回以下の有期雇用労働者の更新が認められたケースもあります。
(1)更新がゼロ回でも雇止めを違法としたケース(2014年の裁判例)
更新が1回もされたことがないにもかかわらず、労働契約法19条2号の適用を認めた事案としては、福岡高裁平成26年12月12日判決(労判1122号75頁掲載)があります。
この事案は、1年の期間を定められた短大講師に対する初回の更新拒絶が問題となったもので、2年間を通してキャリア教育を実施するキャリア支援科目を新設するなどして、「複数年にわたる一貫した学生の教育が予定され」ており、新規採用教員について1年で契約が終了するとなると、学校運営に重大な支障が生じるとみられること、採用面接時にも更新の限度とされている3年間は、契約は原則として更新されるような説明がされていたこと等を考慮し、更新拒絶を違法なものと判断しています。
この事案は、原告である講師が担当する業務(講義)の特徴に着目して雇止めが否定されたものと考えられ、雇止め効力を争う際には、予定されていた業務の性質(特徴)を具体的に検討することが特に重要であることを示しているものと言えます。
(2)更新1回で雇止めを違法とした事例(2020年の裁判例)
最近でいえば、更新が1回(1年ごとの更新)のみであった有期雇用契約について労働契約法19条2号の適用を認めた、東京地裁令和2年5月22日判決(日の丸交通足立事件、労判1228号54頁掲載)の事案もあります。
この事案は、タクシー会社において、定年(67歳)後も嘱託として雇用を継続した運転手従業員について、定年後の運転手を嘱託として雇用する扱いがされていたこと、会社のタクシー運転手のうち70歳以上の運転手は16%に上っていたこと、定年退職後の嘱託雇用では契約書や同意書の作成がされることなく1回の更新がされたこと等の事情を考慮して、更新継続の期待に合理的な理由があるものと判断されました。原告の嘱託雇用条件であれば2回以上の更新が必要となる70歳以上の運転手が会社のタクシー運転手の相当割合を占めていることは、少なくとも70歳までの雇用継続の期待が高いことを裏付ける事情と言えます。
また、定年退職・嘱託による再雇用と更新の手続において契約書類が作成されないことは、更新手続が形骸化し、更新の可否が十分な審査がされることなく更新されていたことを裏付ける事情と位置付けられます。
このように、定年退職後の再雇用の場面では、似たような立場の労働者の方が過去に多くいるものと考えられ、そのような有期雇用の更新が過去どのように運用されてきたかを検討することも、雇止めの効力を争う際には重要であるものと言えます。
4.雇止めの目的が専ら法律上許されないものである場合、労働者は争える余地がある
これ以外にも、雇止めの目的が法律上許されない違法・不当なものである場合には、労働者側は雇止めを争う余地があります。
一例としては、妊娠・出産が挙げられます。男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠や出産等を理由とした女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないものと定めており、この「不利益な取扱い」には雇止めも含まれるものとされています。したがって、専ら妊娠や出産が理由としか考えられない雇止めは(例えば、当該女性社員以外に雇止めされた者がいないといった事情は、このような理由を推測させます)、無効となり、労働者には争う余地があります。
他方、使用者からみれば、妊娠や出産等を行った有期雇用社員の雇止めを行う場合、それが理由であると疑われないよう、雇止め対象となる労働者の選定経緯を十分に検討、記録化し、また説明を行う必要があると考えられます。
5.実態が試用期間である場合にも争える余地がある
よく有期雇用と混同される雇用形態として、試用期間が定められた雇用契約というものがありますが、実は、法律上、有期雇用とは別の性質を持つ契約として扱われています。
試用期間付きの雇用契約は、使用者が試用期間に限って雇用契約の解約権を留保した契約とされています。そして、試用期間は、一般的に、(1)従業員の身元調査の補充を行い適格性を判断するためや、(2)期間中の勤務状態を観察して、適格性を判断するための期間とされており、解約権の行使が認められるのも、その契約における試用期間の目的に沿った調査・観察の結果、適格性を欠くものと認められた場合に限られます。言い換えれば、試用期間が満了したからといって自由に正式採用を拒否(解雇)することは法律上認められておらず、その趣旨に反した正式採用拒否は無効になります。
そして、有期雇用契約の中には、最初の期間の定めが試用期間と同様の目的で定められていることがあります。しかしながら、仮に契約書等で有期雇用であると説明されている場合であっても、 最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(神戸弘陵学園事件、民集44巻4号668頁掲載) によれば、定められた雇用期間の「趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものである」場合は、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意があるなどの特段の事情が認められる場合を除き、試用期間として扱われることになり、先ほど述べたような、試用期間満了時の解約権行使と同じ規制を受けることになります。
そのため、実態が試用期間付きの雇用である有期雇用は、更新が1回もされていない場合であっても、当該契約における試用期間の目的に照らして適格性がないと認められるような場合でない限りは、更新拒否(本採用拒否)をすることができないということになります。
6.おわりに
以上に見たとおり、更新が1回以下の労働者の雇止めであっても、労働者が争う余地(雇止めが無効となる余地)は残されています。
もっとも、更新の合理的期待の有無、試用期間・有期雇用における期間の定めの判別等で判断材料になる会社側の説明は、口頭ベースのものも多く、言った言わないの争いになることが予想されます。
そこで、労働者・使用者ともに、できる限りやり取りを書面化して、あとの争いに備えておく必要があることをおすすめします。
そして、弁護士に相談していただくことで、自己に有利な証拠の作成・収集ができ、また不利な行動を取ることを防ぐこともできます。そのため、争いになる可能性がある場合には、早急に(例えば、労働者であれば雇止を仄めかされてすぐ、使用者であれば雇止めを検討されているタイミング等)弁護士に相談されることをおすすめします。
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