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偽装一人親方・偽装請負(雇用か否か)の判断基準とは? 争いのポイントとリスクを弁護士が解説 

偽装一人親方、偽装請負といった言葉がニュースで上がることも増え、今年(2022年)には国交省が偽装一人親方の防止対策を強化するとして、下請指導ガイドラインの改定に向けた動きを見せているところです。
また、法律相談の場面でも請負や業務委託となっているものの、実態は労働者ではないかと疑われるケースについて、労使双方の側から相談を受けることがよくあります。

この雇用か否かのやっかいなところは、当事者の意図すら決定打ではないため、偽装の意図がない、お互い業務委託だと考えていたようなケースでも、監督官庁や裁判所が雇用と判断することがありうるということです。

そこで、このコラムでは、偽装一人親方・偽装請負を含め、雇用(労働者)か否かの判断基準がどういったものかや、後から雇用であると判断された場合の影響について解説をします。

1.よくある誤解:雇用〇✕判断の決定打ではない事情

相談に来られる方から、以下のような事情があるから「雇用にならないないはず」というお話を受けることがあります。

・作成した契約書の題名が「業務委託契約書」である
・「雇用ではないこと、労働基準法が適用されないことを確認する」という約定がある
・社会保険に加入しないことをお互いに了承している
・源泉徴収がされず、個人事業主として確定申告を行っている

しかし、これらの事情はいずれも雇用か否かを左右する決定打(これだけで雇用になる)という事情ではありません
むしろ、裁判所が現在採用している基準に照らすと、考慮されないか、又はされるとしてもかなり弱いファクターとして位置づけられています。

2.雇用か否かを決める判断基準とは

そこで、裁判所が現在採用している基準をご説明します。

(1) 判断の基本となる要素

労働基準法が労働者を「…使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義していることから(労働基準法9条)、
①労務提供の形態が使用されるという内容、すなわち指揮監督下の労働であるか、
②支払われている報酬が賃金である、すなわち労働に対する対価としての性質を有するか
という観点から、使用され従属する者(労働者)と評価できるか否かを判断するという枠組みで判断がされています。

①・②ともに表現が若干わかりにくいところですが、①は以下のような事情が肯定されるほど、指揮監督がある(強い)と判断されます。
・仕事を断れる自由があるか
・仕事の進め方をどの程度細かく指示・監督を受けているか
・特定の時間・場所で仕事をすることが求められているか
・仕事を第三者に代わってもらう・補助してもらうこと(代替性)が認められるか

他方、②は、報酬の額の算定方法がどの程度賃金と類似しているかという問題で、拘束時間に応じて支給されるなどの事情があるほど、労働に対する対価としての性質がある(強い)と判断されます。

(2) ①と②では判断が難しい場合

もっとも、①と②の二つの要素のみでは判断が困難な業種も存在します。
そこで、①では、判断が微妙なケースについては、以下のような事情も補強要素として考慮して判断がされることになります。

③事業者性の有無(考慮事情の例:仕事に使用される高価な機械、器具を所有している)
④専属性の程度(他社の下で働くことが禁止又は事実上難しいか否か)

ただし、③以降の要素はあくまで①と②で判断が難しい事案で考慮されるものであるため、①②でいわば足切りをされてしまう事案、例えば探偵に稼働時間1時間当たり1万円で尾行による素行調査を任せるような一般的な探偵業務(①の要素が否定)、成果物を1つ完成させるごとに報酬1000円を支払うような一般的な内職(②の要素が否定)は、③以降の要素を考慮するまでもなく労働契約とはされないことが多いでしょう。

3.契約書は請負・委託、実態は雇用の場合の影響

それでは、請負・業務委託のつもりで締結していた契約が雇用と判断された場合、その後の処理・扱いにどのような影響が生じるかを説明します。

(1) 解雇(契約終了)の場面

一般的に、請負契約や業務委託契約の場合、契約書上の約定に基づいて中途解約をすることも、契約を更新をしないことも法規制はありません。
しかし、雇用と判断された場合、労働契約法に定める解雇規制・雇止め規制が適用されるため、契約終了が無効となるリスクが高くなります。

解雇・雇止めが無効となる場合、事業主は、労働者が契約終了扱いになっている期間中に労務を提供していないとしても、その期間中の賃金を支払わなければならなくなります(いわゆるバックペイ)。

(2) 報酬請求の場面

業務委託や請負の場面では、1日の稼働で報酬を定めている場合もあります。
もっとも、雇用と判断された場合、いわゆる残業代、すなわち1日8時間又は週40時間を超えた労働や、深夜帯や法定休日とされる労働などについて、法律に定められる割増率分を上乗せした報酬を支払わなければなりません。

(3)労災保険の場面

業務委託・請負の名目で働く者であっても、労働者と判断できるケースでは、労災保険給付を受けることが可能になります(保険料を事故前から納めていることは、給付に必須ではありません。)

(4)健保・年金の場面

社会保険の加入は、健康保険料が安くなったり、厚生年金という形で負担額を上回る給付を受けられる期待が生じるという点で、労働者に利益のある福利厚生とされています。
そのため、雇用の実態を請負や委託という形で偽装した場合、増額した健康保険料や将来受給できなくなった年金を損害ととらえて、労働者側が損害賠償を求めることも考えられます。
ただし、厚生年金に関しては、将来の受給額への影響が明確ではないとして賠償を否定した裁判例もあり、社会保険に関していかなる責任追及が可能であるかは、裁判所としても見解が分かれているようです。

4.弁護士への相談をお勧めする理由

このように請負や委託という名称であっても、労働者側としては契約終了や労災事故の場面などでは、労働者として救済を受けられる可能性があります。
他方、事業者側としては、指揮監督が強い請負や委託を行う場合、偽装する意図がないとしても、労働者という判断がされないように契約内容や働かせ方を注意する必要があります。

しかし、雇用(労働者)か否かの判断基準は様々な事情を考慮してケースバイケースで判断されるため、見通しがつきにくいところが多くあります。
そのため、契約終了や労災事故でお悩みの一人親方や、指揮監督が強い請負や委託を行うことが多い事業者の方は、先例をよく知る弁護士に相談をされることをお勧めします。

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