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むち打ち被害の交通事故で前科がつくことはあるのか?どういった事情が刑事処分を左右するかを弁護士が解説

交通事故で受けたケガの内容としてよく聞くむち打ち事案。
交通事故は被害者にも加害者にもなりうるものです、いずれの立場でも、加害者の刑事処分は関心事です。

もっとも、むち打ち事案の中には加害者が起訴・処罰されるケース、不起訴になるケースの両方存在し、何を基準に分かれているのかわからないところがあります。
そこで、本コラムでは、弁護士が交通事故のむち打ち事案について起訴・不起訴がどのような観点から分かれているかについて解説します。

1 自動車運転過失傷害罪について

むち打ち事案の場合、加害者は、危険運転行為が疑われるような一部の事案を除き、自動車運転処罰法5条に定める自動車運転過失傷害罪(過失運転致死傷罪)の責任を問われることが考えられます。
この罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされていますが、「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」ともされています。

過失運転致死傷罪は、「人を死傷させた」場合に問われる罪であるため、傷害の結果が発生したことが前提となります。

2 傷害の発生が立証できない・難しいケースについて

⑴ むち打ち事案の特徴

以上のとおり自動車運転過失傷害罪は傷害結果の発生が前提となるため、検察官は、むち打ちを理由に自動車運転過失傷害罪の責任を問う場合、刑事裁判でむち打ちという傷害結果の発生を立証しなければなりません。
しかし、むち打ちに関しては、傷害結果の証明が難しくなることがありうる問題をはらんでいます。

むち打ちは医学的な名称ではなく、病院で診断を受けた場合、その内容によって「外部性頸部症候群」、「神経根症」などと診断されることがあります。

このうち、よく診断される「外部性頸部症候群」は、受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、場合によっては筋の部分断裂、靭帯の損傷が生じたことが原因とされます。
レントゲンやMRIなどの画像診断検査では、明らかな異常を発見できないことが多くあります。

⑵傷害の発生が疑われやすいケースについて

交通事故事件の裁判例の中には、医師がむち打ちの診断を行いながらも、むち打ちという傷害結果の発生が認められないことを理由に無罪判決を下したものが複数存在します。
このような裁判例の傾向から、検察官の中には、「被害者の不詳の進行が、事故後、相当の日数を経てなされたような場合や、軽微な事故態様からして、負傷の事実が疑問であるような場合など」は、「傷害の有無の認定は、相当に慎重かつ厳格に行うべきであり、被害者の申告を鵜吞みにするようなことは、絶対に避けなければならない」と警鐘を鳴らす方もいます(※註1)。

したがって、事故の規模が軽微である、被害者の訴えや診断や事故発生から相当期間を経てされているなどの傷害発生を疑わせる方向に働く事情がある場合、嫌疑不十分による不起訴可能性が高まるものと考えられます。

3 起訴猶予のファクターとは?

過失の存在や傷害の発生を含めて有罪の立証が見込める場合でも、諸々を考慮して処罰を求めなく予定と考えて不起訴にすることがあります(起訴猶予)。
むち打ち事案は、比較的、傷害が重大なものとまではみられないことが多いと考えられます。
交通事故の処分に関わった検察官OBによれば、起訴猶予に付するかの判断に際しては、傷害結果以外には以下のようなファクターを考慮するものとされています(※註2)

  • 行為の悪質性
  • 被害者側の事情(落ち度など)
  • 被疑者の事情(前科など)
  • 被害者の処罰感情
  • 被害弁償・示談状況(保険加入の有無を含む)

捜査の場面でも、加療約3週間以下の事案については、被害者が処罰意思を明確にしている、無免許・赤信号無視などの一定の悪質性を表す事情が認められる事案などの上記のファクターが認められるような事案を除いて、事件処理に「簡約特例書式」という簡易な書式を適用することとしています。
このような扱いからすると、捜査機関としても、上記のようなファクターが認められる事案は処罰を求める可能性が低いものと扱っているようにも見受けられます。

4 終わりに

以上のように、起訴・不起訴を分けるファクターは素人目にはわかりにくい問題が含まれています。
また、事故発生後の挙動も起訴・不起訴を分けるファクターになることがあり、不起訴を得たい加害者としては何をすべきで、何をすべきでないかを把握しておくことが肝心です。

むち打ち事案の場合、加害者は逮捕されないままのケースも多くあるかと思われますが、そういった場合でも以上のとおり初期の対応が起訴・不起訴を分けるファクターにもなりうるため、早期に弁護士に一度相談することをお勧めします。

※註1:立花書房「Q&A 実例 交通事件捜査における現場の疑問(第2版)」城祐一郎著567~568頁参照
※註2:学陽書房「裁判例にみる交通事故の刑事処分・量刑判断」川上拓一編著41頁以下「検察官の終局処分の実情~交通事故事件」濱田毅

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